大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和29年(刑わ)4210号 判決

被告人 富川こと三島静江

主文

被告人を懲役六月に処する。

たゞし、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は週間新聞国会通信及び月刊雑誌国会通信の編集兼発行人であるが、いずれも確実な根拠がないのに、

第一、

(一)、昭和二十九年三月二十二日附発行の新聞国会通信第七十八号紙(昭和三十年証第七百九十六号の一)第一面に『又も出るか電気復元法案、必死に躍る利権政治屋』と題し『住友財閥土井正治』を頂点とする系統図を掲げ、その図中に富山県知事高辻武邦、鍜治良作、土倉宗明、福田一、西村直己、浜田幸雄、相川勝六等の氏名を列挙した上、その記事中に『発電設備復元法案(電気設備復元法案改め)は第十三国会以来利権政治屋によつて、手をかえ品をかえ提案され、その都度反対にあつて敗退していたものであるが、これがまたしても今次通常国会に提案されようとしていることは既報の通りで最近疑獄問題で国会審議が停滞しているチヤンスをねらつて一団の利権政治屋が積極的に工作を進めていることが注目される。同法案が提案されても通過の見込は全くないのにも拘らず、あくまで之を議員立法でデツチ上げようとしている裏には造船、保全疑獄以上の醜悪な取引がひそんでいるといわれ、法案をめぐる利権屋の恥知らずには驚かざるを得ない。執拗な提案運動が止まないのはこれまでこの問題にかじりついて私腹を肥していた関係上今におよんで手を引くことができない事情があるためで、この利権政治屋群に対していづれ検察庁がメスを入れることは明かであり、その時こそ政界ボスの醜い正体がはつきり暴露するであろう。……復元要望は一応全国知事会議で決議されたということになつているが実際は一部の数の者によつて企まれたものであり、鍜治良作を先頭とする四、五人の札つき議員の盲動で誇大な宣伝が行われているに過ぎず、今度新に具体的に動き出したといわれるのは、二月二十五日永田町の南甫園に集つたグループである。同会合では衆参議員十五名と落選議員多数が参加し、復元を議員立法によつて今会期中に実現しようというものである。その中心は前記鍜治良作以下土倉宗明、西村直己、福田一等の現議員と落選組の神田博、中村純一等であり、これが急速に活気づいたのは、これまで富山県高辻知事をめぐる資金関係から新たに発展して住友化学工業会社以下八社が土井正治を通じて大口運動資金を流したためであるといわれる。……復元運動が第十三国会以来継続されている間に富山県高辻知事が約二千五百万円を県費から流用した他に、住友化学等八社からも運動資金が出ていたものであるが、今度は更めて莫大なものが流された模様で、億以上の金が前記利権政治屋を通じ議員立法の工作資金として通産委員、経済安定委員にバラまかれるものと予想され、最も注目すべき点として、同法案の提案者及び署名委員には一人頭三百万円ということで取引が行われていると伝えられていることは如何に大きな資金が動いているかを推察させるものである。……復元運動はこれ迄利権政治屋として悪名高い鍜治良作、土倉宗明、福田一等の自由党議員によつて推進されて来たが、今度正面に飛出して来たのが西村直己であり、西村が南甫園の会合で、必ず今国会で復元法案を議員立法の形で実現して見せると大見えを切つたところから、新展開を見せている。この利権運動の参謀長は西村であろうといわれ、住友財閥との下工作をしたのも西村で、今後西村を中心として猛運動が進められるだろうと予想されている。いづれにしても保全、造船、国鉄疑獄以上の醜悪な取引があるといわれる復元問題が推進されることによつて政界はますます底なしの利権のドロ沼におちこんで行くわけである。』旨の記事を掲載し、

(二)  同年五月十日附発行の同新聞八十三号紙(昭和三十年証第七百九十六号の二)第一面に『電気復元ををめぐる不正を処断せよ』と題し、『高辻知事以下の汚職を告発する』と附記して、『高辻富山県知事を中心とする電気設備復元運動は各派の大勢が全く提案反対の方向をとり殆んど提案の希望が失われたにも拘らず、依然執拗な裏面工作が続けられてをり、新たに提案される電気事業法案の中に復元の趣旨を織込むことが不可能ならば更めて議員立法によつて復元法案を十九国会に持出そうという計画が進められているが、この時に当つて従来復元運動の蔭の推進者であつた自家発大手八社は、自家発電力返還期成同盟を結成し、五千万円の政治資金を醵出して国会工作に乗り出すに至つた。かくて、復元問題は造船利子補給問題と同じく一部業者と国会議員の結託による新たな汚職事件にまで発展せんとしている。政界粛正を念願とする我々はこの新たな悪質汚職の展開を黙視するに忍びず、復元運動をめぐる高辻知事、自家発電業者、利権屋的国会議員の不正を検察当局に対して告発しその徹底的摘発処断をもとめることとした。』旨標記し、その記事中に『告発状の要旨』という見出で『特に提案理由なしといわれるこの復元諸法案をめぐつて、若干の国会議員が動いたのは一つには地元出身代議士が自からの選挙対策としてこれを有望視したからでありますが、一つにはこの法案をめぐつて運動資金が撒布されたからであります。地元出身代議士は選挙対策と金もうけとを兼ねて、この理由薄弱な提案運動に参加したものであります。……こうした電気復元運動の中心となつているのが富山県知事高辻武邦であります。高辻は民選知事当選以来二期六年間にわたつて復元運動の先頭に立つているのでありますがこれが専ら県民の利益を名目とする金もうけ仕事に過ぎないことは今や明白であります。高辻が到底不可能といわれる電気復元を可能であるかの如くいゝふらして中央政界に工作するために、費消した県費はすでに二千数百万円に上るといわれその使途に関して多大の疑惑がもたれているのみならず……高辻が国会工作のために東京に出張するに当つてはさながら大名旅行の如く、その東京における行動も大名生活というべきものでぜいを尽し、代議士連の心胆を寒からしめたといわれており、金に糸目をつけぬ政治工作によつて、一部政治資金にうえた国会議員を操縦したのであり、これによつて根拠薄弱な復元法案が手をかえ品をかえて長期に亘り国会の問題となつてきたのであります。もつとも高辻がこのように派手な運動を継続し得た裏面には単に県費の乱用のみならず、復元によつて多大の利益を獲得し得るはずの自家発電化学工業会社の資金的バツクという事情が存在したのであります。即ち住友を中心とする自家発大手八社は、地方民の利益という名分に立つ地方公共団体の復元運動に便乗して、自家の発電設備の返還を実現し得るかの如く期待し、背後から高辻を支援して多大の政治資金を供与したのであります。いづれにしても高辻が一面において、県民の汗と血によつて納められた税金を流用し、一面において自家発電資本家の提供する政治資金を用い、無理の多い電気復元法案の国会提出のために金権政治的策動を続けて来たことはまぎれもない事実であります。』旨の記事を掲載し、

(三)  同月二十四日附発行の同新聞第八十四号(昭和三十年証第七百九十六号の三)第四面に『国会通信別刷八号醜悪利権政治屋は躍る』と題し昭和電工株式会社外六社の名を掲げ、電気設備復元法案の議員立法による買収費が五千万円右記の資本家からバラまかれてる? 汚職議員を国会から放遂しよう。復元運動で血税吸つた富山県知事告発されんとの記事及び富山県知事高辻武邦の似顔漫画入りポスター写真を掲載し、

(四)  昭和三十一年一月十五日附発行の同新聞第百二十九号紙(昭和三十年証第七百九十六号ノ二二)第一面に『復元汚職に暗躍する三人男、神田、福田、鍜治を裸にする、』と題し、その記事中に『電気復元法案なるものが第十三国会以来表面地味でもつともらしく公共財産の返還で自治体の利益になるというふれこみで持出されていながら、実は政治屋連の金もうけ手段としての利権法案で、これをタネにずいぶんボロ儲けをやつた代議士もあるというのが国会での評判である。……自治体の方はともかくとして戦争中発電設備を召し上げられた(とはいつても実は相当の代償を受けているのだが)自家発電会社としては、いまこゝで昔の設備をそつくり返してもらへるならこんな有難い話はない、いくらでも運動費は出すから一つ宜しく頼むということになつたのが復元運動のはじまりである。だから復元運動をやればもうかるというので、金に目のない政治屋連がとびついた、この筋の通らない復元運動がいつまでも手をかえ品をかえて継続される動因はこゝにある。……高辻富山県知事の子分として復元法案をかつぎまわつてきたのは鍜治良作である。高辻一家の大政小政は戦前派では土倉宗明、戦後派では鍜治良作といわれたくらいだから鍜治が高辻親分のために復元復元で奮斗したことは無理もないが、また一面こういう仕事が彼の利権屋的性格に合つていたのだともいえよう、彼は復元法案で「命をかけてもやる」とやくざ的はつたり言明を出して富山県民に大見得をきつたが、高辻知事の公費乱用で汚職問題が火をふきはじめると、あわててくさいものにふたをする役割でかけ廻つたりした。……彼は復元運動の立役者として高辻知事と利権政治屋グループを築地の待合に談合させたりしたといわれるが……。』旨の記事を、又右新聞第二面に『高辻汚職県政の徹底粛正え、電気復元めぐる不正を告発』と題し『復元運動で血税吸つた富山知事告発されん』との記事入りの富山県知事高辻武邦の似顔漫画を挙げ、告発状という見出で、その記事中に、電気復元運動は今日に至つては到底不可能と見られるにも拘らず、あらゆる手段を尽して提案工作を続けているところに常識をもつて納得し得ないものがあるという趣旨を論じた上『すなわち運動の中心をなす高辻武邦は、復元運動と利害的に密接な関係をもつ自家発資本家と結びつき、一面又県の利益のためという建前を利用して県費を乱用し豊富な政治資金をバラまくことによつてこの運動を継続しつつあるのであり、これを自己の選挙運動に利用すると同時に大いに私腹を肥しているのでありまして復元運動の経緯をしさいに検討するだけで、高辻知事の汚職の疑は十分であります。高辻は知事当選以来二期六年間わたつて復元運動の先頭に立つているが、これが、専ら県民の利益を名目とする金もうけ仕事にすぎないことは今や明白であります。高辻が到底不可能といわれる電気復元を可能であるかのごとくいゝふらして、中央政界に工作するため費消した県費はすでに二千数百万円に上るといわれ、その具体的使途に関して多大の疑惑がもたれているのみならず、知事二期戦に出馬の選挙費用に流用されているなどの点も富山県議会において指摘されているのでありますが……」「高辻が国会工作のため東京に出張するに当つてはさながら大名旅行の如く、その東京における行動も大名生活のぜいを尽し代議士連の心胆を寒からしめたといわれており、金に糸目をつけぬ政治工作によつて、一部政治資金にうえた国会議員を操縦したのでありこれによつて根拠薄弱な復元法案が手をかえ、品をかえて長期にわたり国会の問題となつてきたのであります。……この場合高辻は国会議員ではありませんが、復元運動の中心人物として自家発資本家の運動資金が、高辻の手を通じてバラまかれた疑いは濃く汚職の媒介者たる責任をもつものであります。……鍜冶は自由党の有力な総務某に対し「高辻から相当の資金を持つてくるが、何とか総務会で復元を承認してもらうよう努力してくれないか」と相談した事実もあつて、彼らの運動の根底にあるものが専ら“金”であることは明白であります。これらはいづれも拒絶されたのでありますが、復元運動とは実は“金”をめあてとした利権運動以外の何ものでもないのであります。』旨の記事を掲載し

(五)  同年十月五日附発行の同新聞第百五十一号紙(昭和三十年証第七百九十六号の二三)第一面に『汚職知事は消えて行く、電気復元でもうけた高辻、われらの正論に放遂された』と題し、その記事中に、高辻が知事三選出馬辞退を声明せざるを得なかつたのは国会通信の主張に共鳴した国会議員の高辻三選反対とともに高辻が司直の疑惑の焦点となつて県民の信頼を失なつたがためであるとの趣旨を標記した上、『復元運動が事実上消滅したにひとしい状態となつても、高辻武邦があらゆる手段を尽して一握の国会議員と策謀し復元法案の国会提案工作をやめなかつたのには理由がある、高辻は復元運動に密接な利害関係をもつ自家発資本家と結びつき、一面又県の利益のためという建前を利用して県費を乱用し、豊富な政治資金をバラまくことによつて復元運動を継続したのであり、これを自己の選挙運動に利用すると同時に大いに私腹を肥していたのである。……自家発資本家の政治資金が高辻の手を通じてバラまかれた疑は濃く汚職の媒介者たる責任は免れない。……鍜冶は自由党某総務に「高辻から相当の資金をもつてくるが何とか総務会で復元を承認してもらうよう努力してくれないか」と相談した事実もあつて、彼等の運動の根底にあるものが専ら“金”であることははつきりしている』旨の記事を掲載し

それぞれ該新聞をいづれもその頃東京都内その他において多数の一般読者に発売頒布し、以つて公然事実を摘示して、(一)については鍜冶良作、土倉宗明、西村直己、福田一、相川勝六、浜田幸雄及び高辻武邦の、(二)については高辻武邦の、(三)については高辻武邦の、(四)(五)については高辻武邦および鍜冶良作の各名誉を毀損し、

第二、昭和二十九年四月頃より同年五月下旬頃にかけ、前記(三)掲記の写真同様のポスター(同証号の四)及び『国会通信別刷八号“保全、造船以上の醜悪”電気復元法案に躍る利権政治屋を斬る』と題し、○第十三国会以来利権政治屋が持ち廻つている電気復元法案とは何か、○この法案にダニの如く喰いついて血税を吸う利権政治屋と汚職官公吏の正体、○この利権法案を悪評の議員立法で実現せんとする利権政治屋の名は?、鍜冶良作、土倉宗明、福田一、西村直己との記事入のポスター(同証号の五)各多数枚を東京都内国会議事堂附近その他の路傍の塀等に貼付し以つて公然事実を摘示して高辻武邦、鍜冶良作、土倉宗明、福田一及び西村直己の各名誉を毀損し、

第三、同年一月二十日附発行の雑誌月刊国会通信第七号(同証号の六)第三十五頁以下に、『奈半利川問題の真相を衝く』と題しその記事中に、『川村知事のもつて生れた利権屋根情は野党連合をバツクにしていては十分に利権を漁ることができないところから、早速自由党入りを画策したのであるが、これは案に相違の失敗であつた。自由党議員浜田幸雄氏を丸め込み、利権の山分けでいんぎんを通じておいてこそ吉田首相に食いこもうとしたのだが、さすがに、頑固者の吉田首相、テンから相手にしないのである。』(同誌第四十五頁)旨掲載し、該雑誌をその頃東京都内その他において、多数の一般読者に発売頒布し、以つて公然事実を摘示して浜田幸雄の名誉を毀損し、

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法律の適用)

被告人の判示各所為はいづれも刑法第二百三十条第一項、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するところ、判示第一、の(一)の鍜冶良作、土倉宗明、西村直己、福田一、相川勝六、浜田幸雄、高辻武邦に対する、判示第一、の(四)、(五)の鍜冶良作、高辻武邦に対する、判示第二の高辻武邦、鍜冶良作、土倉宗明、福田一、西村直己に対する各名誉毀損はそれぞれ一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第十条によりそれぞれ犯情の最も重いと認められる判示第一、の(一)の西村直己に対する、判示第一、の(四)の鍜冶良作に対する、判示第一、の(五)の高辻武邦に対する、判示第二、の土倉宗明に対する各名誉毀損の罪をもつて処断すべく、以上の罪及び判示第一、の(二)、(三)、第三、の罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文、第十条により犯情の最も重いと認められる判示第一、の(五)の高辻武邦に対する名誉毀損の罪に法定の加重をした刑期の範囲内において、被告人を懲役六月に処するが、犯情刑の執行を猶予するを相当と認め同法第二十五条第一項本文を適用して本裁判確定の日より二年間右本刑の執行を猶予し、訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人の負担とすることとする。

なお被告人及び弁護人はいずれも判示事実は公共の利害に関する事項で真実の事柄であり被告人は、専ら公益の目的でこの事実を真実と信じ公憤の余り判示所為に及んだものであり、この事実は、本件証拠上十分証明されるから刑法第二百三十条の二第三項により被告人は処罰されないものである旨主張するので、この点についての判断を示すこととする。なるほど、本件事実関係がいわゆる公共の利害に関する事項であり、被告人が公憤の余り専ら公益の目的で本件新聞、雑誌、ポスター等を発行し頒布し又は路傍等に貼付した点は一応そのとおりであろうと認められるけれども、判示各被害者に判示の如き事柄に関連し汚職的言動があつたことの真実なることについては本件全証拠に徴するも未だこれを肯認するに足りない。唯これらによつて窺われるところは、被告人が自らこれを直接経験したところは何ものも存せず、単に他からの伝聞に基く推断に過ぎないのであるが、その伝聞に基く推断は、健全妥当な社会通念に基く常職に照し伝聞それ自体の価値を検討取捨し、より高度の客観的な推敲を経て評価して得たものではなく、単に未だ世上の噂風聞に止る程度のものを主として利害関係者のうち一方的な立場の者からのみ間接に聞知したに過ぎない資料に基き、又直接関係者に確かめるとか、利害の相反する側の者にも当つてみるとかしない侭で或は都内の某料亭に集合したとか、国会内で復元法案の提出促進が企てられているとか、関係地方自治体乃至電力関係会社等がその運動に熱心であるというような事柄から直ちに前記不確実な漠然たる世間の噂風聞に結びつけその侭本件被害者等の公職者に汚職的な多額の金銭の授受等の言動がなされているというような判示名誉を毀損する事実に飛躍推断したに過ぎないものと認められる。以上要するに右にいう真実性の証明は未だ十分とはいえないものであるのみならず、たとえ、被告人において判示事実が真実なりと確信したとしても、被告人のような新聞、雑誌を編集、発行する者としては公共の利害に関する事項については公共の利益以外他意なき場合であつても掲載記事の真偽如何によつては一般公衆の基本的人権に直接影響するところ多大であることに留意し、その取材に当つては万全の注意を払い深重な検討をかさねてこれが採否を決定をしなければならないこと論を俟たないところであるが、本件証拠に現われたところによれば、被告人は前叙の如く本件新聞、雑誌、ポスターの取材発行、頒布、貼付にあたつては、主として日刊新聞、雑誌等に現われたところを参酌し利害相反する一方の側の一、二の人々からの伝聞を基礎に、直接該当関係者殊に本件被害者等の意見を徴することもなく、確実な根拠もなく軽卒に飛躍的に推断した事実を真実と盲信したものであつて、被告人においてこのように信ずるについては客観的に相当な事由があるものとは到底認められないのであるから、その確信には被告人自身において過失があるというの外なく、もとより犯意を阻却するものではない。それ故、この点の主張は採用するわけにはゆかない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 江崎太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例